実用創作文の執筆時間を計算する
実用入力で求められるタイピング技術に関してタイパーにも言及しながら大岡さんがコメントされています。 oookaworks.seesaa.net
タイパーの2000文字/10分を超えるような高速タイピング技術が創作文で活かせる事はあるのでしょうか?まぁタイパーとしては手段と目的が逆転していて、もともと創作活動に重きを置いてる訳じゃないからあえて実用的な効率性とは結びつけてくれないほうがありがたいという側面もあるのですが。。タイピング技術がプロレベルなのは間違いないですが実は周辺の文章作成技術はど素人である可能性が高いですね(私のこと)。漢字変換ありの競技タイピングの場は新聞記事漢字変換含め丸暗記ゲーの「毎日パソコンコンクール」と歌詞タイピングの「ニコ生タイピング」くらいしかなく、これらを練習したところでとても実用入力マスターしたなどとは言えず、まして創作文なんてタイパーからすればもっともっと遠いです。
実際に私も1000文字/10分以上の速度は要らなそうだねー、というような以下のような記事は書いてましたね。。
とはいえ、もう少し掘り下げて考えてみましょうか。せっかくタイピング練習を人一倍してきたタイパーの身としては、高速タイピングはちゃんと実用的にも役に立つよ!という例を示したいものです。確かにそんなに速く打てても仕方ないよな。。とはなんとなく思いますが、例え思考速度がネックになろうと入力が速いに越したことはありません。ある思考速度においてタイピング技術を伸ばす事がどれくらいの時間短縮に繋がるのか。概算でもよいから数値としてイメージし、その上でこれ以上タイピング技術を磨く必要があるのかどうかを各々で検討するのが良いでしょう。
まず文章を書くという行為をシンプルにモデル化してみましょう。創作文執筆の作業内容を詳しくみていくと、次の3つの時間が存在してそうです。
①手を止めて文を考える事に専念する時間。
②思いついた文を書くことに専念する時間。
③書きながら文を考えている時間。
注目すべき点は①考えるだけ②書くだけの単純な繰り返しではなく、③のように書きながら文を考える時間があることです。ほとんど誰しもが作文中に③の状態に自然とな時間があるのではないでしょうか。人間は器用なものですね。
これが問題をややこしくしていると考えられます。例えば③が無ければ単純に①と②の繰り返しとして考えられ、タイピング速ければ速いほど②の入力時間が短く、時間短縮になりますね。しかし実態はそんな単純ではなさそうです。
問題は③の状態をどう考えるかです。書きながら文を考えられるのであれば、何も急いで筆を進める必要はありません。そして③は何も特別な状態ではなく、誰しも③の状態を経験していてもおかしくない気がします。③が無く①と②の切り替えばかりだったら逆に脳が疲れそうです。しかし、書きながらの思考がどれほどの質を伴っているのでしょうか。そこに個人差がありそうです。
大岡さんは筆記用具によって文体が変わると仰いました。
私も同じですが、一方で変わらないと主張する人も少なからずいるそうですね。③と関係づけて考えますと、書きながらでも濃い思考をするから、いかに書く事が無意識に・ストレスフリーに行えるかが重要で、それすなわち書く行為そのものが直接思考に関与しているといえるのではないでしょうか。
他方で、大岡さんは人によって文字イメージしてからタイピングに至るまでの指の使い方のイメージが違うという説も指摘されています。
頭から文字が指を通ってキーボードに行くのか、それとも頭でまずキーボードの打つキーを認識して、それを指が取りにいくのかです。
大岡さんは前者、私は後者です。私の予想では、脳内発声がない、または同時打鍵配列を使っていることが前者サイドになる事と相関があると考えています (順次vs同時の比較はもっと詳しく考察してみたいところ)。
私は後者の立場代表のつもりでお話しますが、指は第二の脳とも言われ、指を動かす脳と文を考える脳がどれほど分離してるかによると思います。私は常に脳と指はラグ(数百ミリ秒のオーダー?)があり、脳はひたすら指に指令を送りつけてるだけで、実際に指が動いている間は別の事を考えている事が多いです。
指と脳が分離してれば③のながら思考はやりやすそうですね。とはいえ実力のある作家さんは前者タイプが多そうですし、別の理由でちゃんと"ながら思考"をしてそうです。どうなんでしょう。
さて、そもそも入力速度は数値化されているのに思考が数値化されてない事が話をややこしくしてるのです。思考速度も同じように字/分(思いついた文の量)でとりあえず数値化してみましょう。
ここでは、筆or指を止めている時の人の思考速度は(適度に下準備があるものとして)皆同じとします。この設定値が悩むのですが今は1000字/10分と仮定しましょう。
また、書きながらの思考速度を、指を止めている時の速度のパーセントで表しましょう。0%は全く"ながら思考"が出来ない人、100%の人は書きながらでも考える脳がフル回転する人ですね。
いまから800文字の文章を書きます。単純化のため②のようなあえて書く事だけに専念する時間はないと仮定し①、③だけ考えましょう。たとえば入力速度と思考速度が共に1000字/10分で、書きながら思考の質が50%の時、800文字の入力時間は
800字 ÷ (1000字/10分) = 8分
です。入力中にも50%の質で思考できるので、この間に思いついた文章量は
8分 × 1000文字/10分 × 50% = 400文字
です。ノルマは800文字ですので、残りの400文字は手を止めて考えなくてはいけません。これに要する時間は
(800文字-400文字) ÷ (1000文字/10分) = 4分
となります。したがって総執筆時間は
8分 (③考えながら書いた時間) + 4分 (①手を止めた思考時間) = 12分
と求まります。
ちなみに文章量をc、入力速度をw、思考速度をt、思考の質をeとすると、上の計算をしてから式を整理すると
と表されます。ただし"ながら思考"速度が入力速度より大きいte>wの時は上の式は使えず、総執筆時間は入力時間と等しいc/wとなります。
手を止めるタイミングも人によって色々とありそうで、ある人は数文まとめて打ってから思考タイムになるかもしれませんし、別の人は文節ごとあるいは単語ごとにいちいち細かく手を止めるかもしれません。ただこの計算上では任意であり手を止めるタイミングは計算結果には関係ないです。
さて、このような簡略な計算によって思考速度が1000文字/10分のとき、入力速度が500〜2000文字/10分で"ながら思考"の質が0~100%のとき、800文字を執筆する時間は以下のように求まります。
さて、結果を見ていきましょう。
まず重要な点は、1000文字/10分の人と2000文字/10分の人では、ながら思考の質が上がるにつれ執筆時間が変わらなくなります。100%では双方とも8分で書き終えていて、タイピング速度の差が出ていません。
ながら思考を行わないタイプの人 (0%) では、タイピング速度はちゃんと執筆時間に反映されます。2000文字/10分の人は1000文字/10分の人より4分時短できてますね。
500文字/分では入力速度が思考速度より全然遅くネックとなっているので、ながら思考の質を50%以上にしても作業時間は減りません。
いささか単純すぎるモデルでしたが、文章作成の一面を (半) 定量的に説明できているのではないでしょうか。
前々から随所で言われている1000文字/10分より速くてもあまり役に立たない説は、たしかに妥当といえそうです。思考速度より入力速度が上回ってもメリットが少ないのはそれは確かですね。とはいえ今回数値にしてみたことで、入力速度が高いメリットは0ではないということと、特にタイピング時はタイピングに集中するような人だと恩恵がある事がわかりました。
また、タイピングが速ければ修正作業も速くなり、文章作成中に「とりあえず書いてみて試行錯誤」することが苦ではなくなります。完成した文章の文字数ではなく、修正も含めた文字数で考えれば高速タイピストのメリットも目立ってきて、タイピング速いほうが気軽に文を書いたり消したりして文章を練ることができるといえるでしょう。
ところで、下準備をかなり丁寧に行っているケースや、または日記等の下準備そのものがほとんど不要なケースでは文を思いつく速度は喋る速度に匹敵しそうですね。そこでは思考速度 (文を思い付く速度) が2000文字/10分といったところにまで上がるのではないでしょうか。
このような場合で、上記の計算をし直すと次のようになります。
さきほどよりは2000文字/10分の人のタイピング技術が役に立っている感じがしますね (10倍した8000文字執筆時間のほうが実感しやすかったかも)。
とはいえ、漢字変換込みの2000文字/10分はさすがにトップ層のタイパーくらいしか到達できなさそうです。まして数時間単位での打鍵は無理です。でも1500文字/10分くらいだったら現実的かも。
わたしが前に上げた動画だと1228字/10分だったようです。
動画中にだいぶ遊んでたりするので、速度意識していれば1400くらいはいってそうですね。
1500字/10分を2時間維持する動画とか上げてもいいんですが、難しいというかアホらしいかもしれません。。というのも創作文の速度検証だったら無意識に打ちやすく親しみのある話題を選んでしまいそうだし、速度の代わりに文章の質や創造性が損なわれたら (速度の検証の為ならどうせ損なわれるに決まってて) 本末転倒です。だからタイパーに創作文での検証なんてきっとお願いしないほうがいいんです。
単純なモデルを前提にして論じてきましたが、実際には書く事と考える事は複雑に連携していて、③を一般化したようなもの、すなわち書くリソースと考えるリソースの割合が常に連続的に変化しているものと考えられます。例えば片方に専念してる時の仕事の質を100%としたとき、ながら作業でも60%の質が出るとしたら考えながら書く時の効率は60 + 60 = 120%となり、100%以上の効率が出ると考えられますね。この割合は、個人差もありますし、個人の中でも状況に応じて変化していそうです。
もう一つ、問題なのは③の思考の質は単純に筆を置いた時の質のパーセントで表してしまってとよいのでしょうか?そうではなく、むしろ①と②の思考は質が根本的に異なり、筆を進めながらの思考回路は筆を止めている時では再現できないかもしれません。非常に単純な説明をすると脳トレというやつです。指を動かすのは高度に脳を刺激するので、その刺激の最中でないと働かない思考回路がある、というのはありそうですし、それは筆記用具により大いに影響受けてそうです。
まとめますと以下の通りです。
・1000字/10分より速い入力速度は確かに役に立つ場面が限られそう。
・人間は書きながらでも次の文を考える事ができるが、この能力には個人差がありそう。
・書きながら文を考える事が苦手な人には高速タイピングは役に立つ。
・また下準備が念入りになされているケースや、日記などのそもそも下準備が不要な文章では喋るような勢いで文を思いつくので、高速タイピングが役に立つ。
したがって、タイピング技術の磨きすぎに損はないです!(他にもっと磨くべき技術があるだろうというツッコミは無しでお願いします